大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(秩ほ)1号 決定

よつて按ずるに、法廷等の秩序維持に関する法律第五条第一項によれば、同法による制裁を科する裁判に対しては、その裁判が法令に違反することを理由としてのみ抗告を申立てることが許されるのであつて事実誤認を理由とする抗告の申立は許されないことが明らかであるから、所論中事実誤認を主張する部分は抗告理由とするに由なく不適法であるから、特にこの点判断を加えないこととする。

次に右法律第二条第一項にいわゆる審判その他の手続をするに際しというのは、審判その他の手続自体が進行中というような局限された場合は勿論更に広くこれに接着するその当該手続の前後の過程をも包含する趣旨と解するのが相当であつて、又右条項のいう暴言、暴行、けん騒その他不穏当な言動の向けられる相手方は、直接裁判所又は裁判官に対してでなくとも検察官弁護人その他訴訟関係人に向けなされても、その言動がその時の具体的な情況によつて裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げ、或は裁判の威信を著しく害したものと認められる限り、右法条所定の制裁を受けるものといわなければならない。

ところで取寄にかかる前記抗告申立人に対する窃盗被告事件の記録就中第五回公判調書の記載によれば、昭和二十九年九月二十七日の検察官石井玉蔵及び被告人抗告申立人各出席の原審右公判期日において、裁判官斎藤二郎が右抗告申立人に対し判決の宣告を行い、判決の主文の朗読次いでその理由要旨の告知をした直後、右抗告申立人は、右検察官に対し備付の椅子を揮つて暴行を加えたので、右裁判官は、抗告申立人に退廷を命じ、引き続き上訴期間及び上訴申立書を提出すべき裁判所を告知し右期日における手続を終了したことを認めることができる。すなわちこれによれば原裁判所の右公判手続進行中に抗告申立人が立会検察官に右暴行を加えたことが明瞭に窺えるのである。蓋し判決宣告手続は、単に判決主文の朗読とその理由要旨の告知をもつて終了するのではなく、なお上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知することが刑事訴訟規則第二百二十一条により要請され、又場合によつては、被告人に対しその将来について適当な訓戒をすることが同規則第二百二十一条により認められ、又保護観察に付する場合には、保護観察の趣旨等を説示することが同規則第二百二十条の二により要請されているのであるから、これらの手続がなされなければ判決宣告手続は全体としては未だ終了したものとはいえないからである。然らば右抗告申立人の所為は、右公判期日における判決宣告手続進行中に検察官に暴行を加え裁判所の判決主文の朗読、理由要旨の告知に続く前記のような爾後の職務執行を妨げたものであるから、原決定がこれによつて「……判決を宣告するに際し検察官石井玉蔵に対しその場にあつた証人用の椅子をもつて殴打しその暴行に依り裁判所の職務の執行を妨害したもの」と認めてそ所為を法廷等の秩序維持に関する法律第二条第一項に該当するものとし同法条を適用して抗告申立人を過料三千円に処した処置は、前段に述べたところに照し洵に正当であつて何ら法令に違背するものではない、その他原決定には法令違反を窺うに足りる何ものも存しないから本件抗告の申立はこれを採用するに由のないのである。

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